中小企業のリスクマネジメントと事業継続計画(BCP)

1.はじめに

事業活動を行う中で、様々なトラブルなどに見舞われることがあります。
特に、昨今の社会情勢においては、大規模な災害や感染症など、事業継続を脅かす事態が起こりうる可能性があります。
当事務所でも、2010年の開業から約半年後に東日本大震災が起こり、また、開業から約10年後の2020年には新型コロナウイルス感染症が世界的規模で拡大する事態に直面しています。
そのような状況下においても、いかにして事業を継続していくか、予想される課題やリスクをあらかじめ洗い出し、その対応策を検討し、事業継続計画(BCP, Business Continuity Plan)や必要となる規程などを整備しておくことが重要です。
もっとも、「リスクの検討や対策、事業継続計画が重要だとは聞くけど、何から手をつけたらよいのだろう?」と思われる中小企業の方もいらっしゃるかもしれません。
そこで、今回は、中小企業のリスクマネジメントや事業継続計画(BCP)の作成などの実務対応の流れを整理してみたいと思います。
なお、リスクマネジメントに関する取締役の責任につきましては、よろしければ「リスクマネジメントと取締役の責任(判例紹介)」も併せてご参照ください。※2022年9月10日追記

2.実務対応の流れ

事業継続計画(BCP)とは、「企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと」をいうものと考えられています(中小企業庁ウェブサイト「中小企業BCP策定運用指針」1.1 BCP(事業継続計画)とは より引用)。
事業内容や規模などにもよりますが、事業継続計画(BCP)などの作成にあたっては、おおむね以下の流れで進めていくことになるものと思われます。
なお、マンパワーの不足や資金的な事情などにより、事業継続計画(BCP)の作成が困難だと考えられる方もいらっしゃるかもしれません。
その場合には、自社で対応できることから、対応できる形で進めていただくとよいように思います。
もちろん、事業継続計画(BCP)の作成には大きな意義がありますが、例えば、事業継続のためのリスクを把握し、対応策を検討されるだけでも、今後の事業活動において有益であるものと考えます。

(1)事前準備
(2)リスク分析
(3)対応策の検討
(4)事業継続計画(BCP)などの作成
(5)社内研修
(6)定期的な点検

(1)事前準備

まずは、事業継続計画(BCP)などの作成にあたり、誰がどのような役割を担うか、社内の組織体制を確認、検討します。
役員会(取締役会など)、経営企画や経営会議を担当する部署などが社内にあるようでしたら、それらの部署が担当してもよいでしょうし、必要に応じてプロジェクトチームなどを立ち上げてもよいと思います(本稿では、事業継続計画を担当する組織を、便宜「担当部署」といいます)。
併せて、事業継続計画(BCP)の方向性を定めるため、担当部署において基本方針や優先事項などを検討しておくと、その後の実務対応への備えとして効果的かと考えます。

(2)リスク分析

事業継続計画(BCP)の作成の中心となるリスクの確認、分析を行います。
一般的に、社内の部署ごとに起こりうるリスクは異なるものと考えますので、統一の書式などを用意し、各部署において下記の各項目をリスト化すると、情報の共有などの際に便利です。
なお、ビジネス書籍などでは、タスクを緊急度と重要度から分類していく時間管理マトリックスが紹介されていることがあります(スティーブン・R・コヴィー『完訳 7つの習慣』250頁(キングベアー出版,2016)など)。
リスク分析にあたり、このような手法を利用されることも効果的かと考えます。

ア リスクの洗い出し
万一の事態が発生した時に想定されるリスクの洗い出しを行います。
最初の洗い出しの段階では、最悪の事態を想定して、各部署において細かくリスクを確認します。
現場の状況については、経営者層よりも各部署の方が精通している可能性がありますので、まずは現場の視点からリスクを細かくリスト化していきます。

イ 影響度の確認
上記アで洗い出したリスクについて、事業への影響度を確認します。
仮に、あるリスクの発生する可能性が高かったとしても、必ずしも事業への影響度が高いとは限りません。
そのため、事業継続のために確実に必要なものなのか、復旧などが臨ましいがそれがなくても一応事業が継続できたり、他の物事で代用できるようなものなのか、などを確認します。

ウ 優先順位の検討
上記ア、イを踏まえて、各リスクへの対応の優先順位を検討します。
前述の時間管理マトリックスを利用している場合には、「緊急かつ重要」にあたる部分から優先的に対応することになります。
なお、各部署におけるリスク分析の結果、各部署においては「緊急かつ重要」にあたる事項であっても、事業継続計画(BCP)などを作成する際に、担当部署において異なる判断がなされることもあり得ます。
そのような場合には、必ずしも担当部署の見解を優先するのではなく、双方において意見交換などの機会を設けることが重要です。

(3)対応策の検討

各部署におけるリスク分析の結果を、担当部署に提出します。
担当部署では、上記のリスク分析の結果を踏まえて、各リスク項目に関する対応策を検討します。
対応策については、自社の事業継続への必要性はもちろんのこと、取引先への影響、資金的な面、関係法令との関係など、幅広い視点から検討することが重要です。
そして、事業継続計画(BCP)などに実際に記載する事項と、そうでない事項を分けていきます。
なお、事業継続計画(BCP)などに記載しない事項であったとしても、必ずしも重要度が低いとは限りません。
そのため、必要に応じて別途マニュアルや補足資料、Q&Aなどを作成し、社内で共有するとよいと思います。

(4)事業継続計画(BCP)などの作成

上記の分析や検討結果を踏まえて、事業継続計画(BCP)を実際に作成します。
ただし、事業継続計画(BCP)などを単に作成しただけでは、社内への周知が不十分なことも予想されます。
そこで、下記のとおり、事業継続計画(BCP)に関する社内研修などを行うことが効果的かと考えます。
さらに、事業継続計画(BCP)は時間の流れとともに対応策などが陳腐化していくことが予想されますので、定期的な見直しが必要となります。
これらの点から、事業継続計画作成以降の社内研修や見直しなどの計画、その他、必要に応じて社内の規程類の整備(すでに作成されている規程類の修正も含みます)なども含めて検討しておくとよいと思います。

(5)社内研修

事業継続計画(BCP)などを作成したら、社内への周知を行い、全社的に共有することが必要です。
もっとも、単に会社の規程類の共有フォルダーなどにアップロードしただけでは、社員が理解し、計画に従って行動することは困難かと思われます。
そこで、事業継続計画(BCP)の作成後に社内研修を実施し、社員への周知を徹底することが重要です。
社内研修の際には、計画内容の紹介にとどまらず、作成の趣旨や背景なども含めて伝えると効果的かと考えます。

(6)定期的な点検

事業継続計画などを実際に運用していると、時間の流れとともに対応策などが陳腐化する可能性があります。
また、項目によっては、よりよい対応策が発見されたり、計画内容と現実とで異なる部分が生じてくることもあり得ます。
そこで、事業継続計画(BCP)などを作成後、少なくとも1年に1回は内容の見直しを行うことが必要かと考えます。

3.まとめ

万一の事態に備えて、事業継続計画(BCP)などを作成し、全社的に共有しておくことは非常に重要です。
事業継続計画(BCP)などの作成にあたっては、上記のとおり、事前準備→リスク分析→対応策の検討→事業継続計画(BCP)などの作成→社内研修→定期的な点検という流れで進めていくことが考えられます。
もっとも、上記の流れで進めていくことが困難な場合には、対応できる部分から進めていただくとよいように思います。
これまでの事業活動に、リスクマネジメントの視点を取り入れていただくきっかけとなりましたら幸いです。

4.当事務所のサポート例

当事務所では、各社様のご要望を伺いながら、下記のご依頼などを承っております。

・事業継続計画(BCP)などの作成のサポートをしてほしい。
・既に作成している事業継続計画(BCP)などを見直したい。
・実務対応などのコンサルティングをしてほしい。
・社内研修の講師を依頼したい。
・顧問契約により継続的なサポートをしてほしい。

オンラインのご相談などにも対応しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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